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世の中の物事についてあれこれ考えるkudeの日記


by kude104
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暗いところで待ち合わせ

幻冬舎文庫出版、乙一著の「暗いところで待ち合わせ」を読了しました。
相変わらず情感のある文章を書くなぁ、このひと。

あらすじを簡単に書くと、会社の同僚を駅のホームから突き落として殺害したとして警察に追われている主人公の青年が、目の見えない一人暮らしの女性の家に隠れ住む、というもの。
このプロットから、もっとスリリングでサスペンスフルなストーリーになるか、ラブストーリーになるかと予想していたのですが、実際にはかなり「静」の物語でした。

隠れている青年は気付かれないよう極力じっとして動かない。
目の見えない女性のほうは、誰かが潜んでいることに徐々に気づいていくのだけど、気づいていることを気付かれて変に刺激してはいけないと、努めて何もないようにふるまう。
――とまぁ、そんなかんじで、二人の間にアクションらしいアクションは起こりません。
ただ、それでも一緒に暮らすうちに、徐々に、じわじわと、関係性が近づいていくのですが、そのへんの物語性がなんだか優しくてよかったです。

というのも、主人公の青年は他人とのコミュニケーションが苦手というか、慣れ合いを拒否して生きてきたという男で。
それゆえ会社でもうまく人間関係を築けず、社会に居場所がなく、孤独です。
本人は、他人と関わるくらいなら孤独でいい、独りで生きていけると思っています。

一方の女性のほうも、もともと自分に自信のない性格に加えて失明したことで、自分の殻に閉じこもるようになります。
日がな一日何もせず、ただじっと家の中で横になっているだけ。
視力を失い、人並の幸せが望めない自分は、そうして独りで生きていくのが一番傷つかず幸せだと思っています。

そんな孤独を良しとする二人が、否が応でも相手の存在を意識して暮さざるを得ないシチュエーションに置かれることで、自分の”孤独さ”を知るようになっていきます。
ああ、実に巧い構成だなぁ。
ぼくも多少なりとも孤独を良しとするところがあるので、ちょっと感情移入してしまいました。
by kude104 | 2007-02-12 22:53 |