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世の中の物事についてあれこれ考えるkudeの日記


by kude104
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80キロは無理だけど、夜のピクニックはしてみたい

新潮文庫出版、恩田陸著「夜のピクニック」を読了しました。
第2回本屋大賞を受賞したというだけあって、なるほど、とてもいい小説でした。

内容は、とある高校で行われている「歩行祭」というイベントを舞台にした青春物語です。
歩行祭というのは、全校生徒が朝の8時から翌朝の8時まで夜を徹して80キロを歩き通すという学校行事で、なんだか24時間テレビの100キロマラソンのようなイベントです。

そんな無茶苦茶な行事、いくらなんでも実際にはないだろう、作者の考えたフィクションだろうと思っていたら、作者の高校で実際に行われていた行事だそうです。
すごいね。
そんな過酷なイベント、よくやるよ。
参加する(させられる)生徒も大変だけど、運営するほうも大変そうです。
ぜったい何人か、途中で逃亡しそうじゃないですか。
よくきちんと統率できるもんだなぁと感心します。

で、物語としては、主人公たちがこの歩行祭をスタートしてゴールするまでの様子を、わりと淡々と描いたものとなっています。
べつに、なにかすごいドラマチックな出来事が起こるわけではないけれど、でも、そもそも歩行祭というイベント自体が十分ドラマチックですから。
高校三年という多感な時期に、友達と夜通し歩き通すというそれだけで、十分ドラマチックじゃないですか。

歩きながら見る景色や、友達とのたわいの無い会話。
それらを楽しみながら、あるいは歩き疲れて苦痛と戦いながら、ふと気がつけば、一歩一歩確実に「このとき」が終わりが近づいているという感じ。
この歩行祭というイベントは、青春そのものだよなぁと感じます。
うまいイベントを考えたものだと思いますし、うまい題材を小説に持ってきたなと思います。

この物語のもうひとつの軸として、二人の主人公の関係性が、この歩行祭の間にどう変化するのか、あるいはしないのかという物語が紡がれます。
その二人の主人公というのは男の子と女の子なんですけど、普通ならこれを恋愛話に持っていくじゃないですか。
でも、「夜のピクニック」では、この二人はクラスメイトの誰にも言えないある秘密(家庭の事情)を抱えていて、それゆえお互いがお互いを避けています。
顔も合わさない、口も聞かないような関係です。

この二人の関係性が物語にひとつの緊張感をもたらしていて面白いですね。

まぁ、青春小説というには美しすぎるというか、青春ってもっとドロドロしていたりスカスカだったりするもんだと思いますけど、その上澄みの美しいところだけを描いたような感があって、人によっては物足りないかもしれませんけど。
でも、ノスタルジーというか、大人になったぼくらがあの頃を振り返って憧憬する、そんな物語なので、それはそれでやっぱり心地いいです。

感動するというより、心が洗濯されてさっぱりするような、そんな小説でした。
by kude104 | 2006-09-18 23:59 |