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世の中の物事についてあれこれ考えるkudeの日記


by kude104
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ベロ相うらないで大当たり

昨日のTVアニメドラえもんの「ベロ相うらないで大当たり」がなかなか味わい深かった。

話の導入は、手相占いでキャーキャー言われているスネオに嫉妬したのび太が、タイムマシンで未来を見てきて、それを「ベロ相うらない」で当てるというもの。
で、その様子を見ていた冴えない中年のおっさんが、「私の未来を占ってくれ」とのび太に泣きつくところからドラマが動いていく。

このおっさん、実は作家を目指しているのだけど、まったく芽が出ず、続けようかやめようか悩んでいるわけ。
で、仕方なくのび太はドラえもんとタイムマシンでおっさんの未来を見てくるわけですが、やっぱり作家にはなれていなかった。

ボロ家、夕焼け、風鈴の音、ひぐらしの鳴き声をバックに、作家にはなれないことを告げられたおっさんは、落胆して忍び泣くのね。
でも、すぐに精一杯強がって「よし、こうなったら商売でも始めて大儲けするか。なにも文学ばかりが人生じゃなし」と笑ってみせるのです。
切ない。
じつに切ないシーンだ。

そんなおっさんに同情したのび太たちだけど、考えてみればこれでおっさんの人生が変わったわけだし、もしかしたら本当に大金持ちになっているかもしれないぞと、わくわくしながら再び未来のおっさんを見に行きます。
でも、未来のおっさんは近所の弁当屋で働いていて、相変わらず貧乏なままだった。
うわ、なんてリアルで切ないお話。

で、ここからがいいところです。
もう小説は書いていないのかと尋ねると、おっさんは恥ずかしそうに、「実はねぇ、ずっと書き続けているよ」と答えます。
「せっかく占ってもらったんだけど、やっぱり、ぼくの生きがいは文学以外にないとわかった。売れても売れなくても、もう構わない」
「アルバイトを始めてね。文学に固執するあまり、ぼくは今までまともに働いたことがなかったんだ。そして気づいたんだよ、文学と同様、どんな仕事にも難しさややりがいがあるんだってね」
「文学も仕事も苦労が同じなら、なにも一つに絞ることはない。両立することだってできるわけだよ」
「そしたらね、最近になって、ようやく自分でも満足できる作品が書けるようになってきたんだ」
「たとえ世の中が認めてくれなくても、ぼくはぼくの小説が優れていることを知っている。それだけでいまは幸せだよ」
ものすごく穏やかな表情でそう語るおっさんは、これはもう悟りの境地に至っているね。

このアニメを作っている人間も、作り手として、たぶんこのおっさんと同じような葛藤を抱えたことがあるのだろう。
そして、いままさにそうした葛藤の中にある人や、これからそうした道を歩くであろう人に向けて、ひとつの理想の境地をおっさんに語らせたのだろうと思う。
応援歌でもあり、レクイエムでもあるのだろうね。

ここで終っていたらぼくとしてはパーフェクトなんだけど、この後おっさんの小説が文学賞を受賞してハッピーエンドで話が終わる。
このへんはまぁ、子供向けアニメとしてしょうがないか。
by kude104 | 2008-09-13 23:59 | テレビ